オーバーツーリズムを旅行者の視点から解決策を考える
近年、観光地に過度な観光客が集中する「オーバーツーリズム」という現象が世界中で問題となっています。特に人気のある観光地では、観光客の増加により、生活環境が悪化したり、自然環境が損なわれたりするなどの影響が生じています。旅行者としても、観光地の混雑やマナー違反、さらには地域住民との摩擦が悩みの種となりつつあります。今回は、オーバーツーリズムの問題と、その解決に向けた対策について考えていきます。
オーバーツーリズムとは?
オーバーツーリズムとは、特定の観光地に観光客が集中し、その結果、地域のインフラや環境に過度な負担がかかる現象を指します。例えば、観光地での混雑や交通渋滞、観光客によるマナー違反(ゴミのポイ捨てや公共の場での騒音など)が挙げられます。
観光地での生活への影響
旅行者として訪れる観光地で、長時間の混雑や過度な観光客の集まりに悩まされることが多くなっています。例えば、京都や鎌倉などの有名観光地では、観光シーズンには公共交通機関の混雑や移動に支障が出ることがあります。また、観光地周辺の住民生活にも影響を与え、地域住民の生活空間が侵害されるケースも増えています。
目次
Toggleオーバーツーリズムが日本で話題になった経緯
日本の観光業は、長年にわたり国内旅行者が大きな役割を果たしてきました。しかし、少子化や高齢化が進む中で、国内旅行の消費額は一定の範囲内に留まっています。2023年の旅行消費額に関するデータ(出典:旅行・観光消費動向調査 2023年年間値)を見ると、国内旅行消費額が依然として多くを占めているものの、その成長は著しくありません。
一方で、訪日外国人(インバウンド客)の増加が顕著です。2000年代以降、日本政府が積極的に観光立国を宣言し、観光庁の発足やインバウンドプロモーションを展開したことにより、訪日外国人旅行者数は急増しました。特に、2003年には521万人だった訪日外国人旅行者数が、2019年には3188万人へと大幅に増加しました。これに伴い、訪日外国人による旅行消費額も増加し、観光業は日本経済において重要な柱となっています。
コロナの影響により一時期、外国人旅行者は減ったものの、2023年には2507万人に回復し、再び観光需要の拡大が見込まれる中で、オーバーツーリズムの問題も再燃しています。観光業の急速な拡大がもたらしたこの現象は、地域住民の生活環境や観光地の維持に深刻な影響を与え始めています。
オーバーツーリズムの影響:世界の各都市での問題
オーバーツーリズムの問題は、単に観光地の混雑や地域住民の生活に悪影響を与えるだけではありません。実際、観光地の経済や文化にも深刻な影響を与えることが分かっています。
ケース①ベネチア(イタリア)
イタリアのベネチアでは、観光による経済効果が大きい一方で、クルーズ船の増加が地域に悪影響を及ぼしています。観光客が日帰りで滞在し、宿泊を伴わないため、地域の経済的利益は減少しています。また、民泊が急増した結果、住居用の不動産が観光用に転換され、地域住民の住環境が悪化しているという問題も抱えています。
ケース②京都
日本の京都でも、観光客の増加が公共交通機関や観光地における混雑を引き起こし、住民の生活が圧迫されています。観光業が進む中で、伝統文化や生活習慣が観光目的に合わせて変質してしまう懸念もあります。観光に適した地域開発が進む一方で、地域の特色や独自性が失われていく危険性があるのです。
これらの事例から分かるように、オーバーツーリズムは短期的な観光経済の利益を生み出すものの、長期的には地域の持続可能性を損なうリスクを伴います。観光が過度に依存することで、地域の経済は単一の産業に依存し、他の産業が衰退するモノカルチャー化を引き起こします。その結果、観光が不安定な外的要因によって冷え込むと、地域全体が大きな影響を受けることになります。
オーバーツーリズムによるみんなの旅行への影響
オーバーツーリズムは、地域の観光資源や文化にも悪影響を与えています。例えば、観光地の混雑により観光体験そのものが損なわれることがあり、旅行者としても十分に観光を楽しむことが難しくなってしまいます。宿泊施設が取れなかったり、観光スポットで長時間待たされたりするのは、旅行者にとっても非常にストレスになります。
地域文化や自然への影響
また、観光客の増加により、地域の伝統文化や自然環境が損なわれる危険性もあります。京都や岐阜県白川村など、歴史的建造物や文化遺産を抱える観光地では、過度な観光が地域社会にとって負担となり、その結果として観光地の魅力が失われることになります。
オーバーツーリズムの解決策としての民泊と新たな課題
2010年代半ばから、民泊が急速に広がり、観光業の新しい形態として注目されてきました。東京オリンピックも予定されており宿泊施設が不足することなども見込まれ日本ではホテルや旅館に加えて民泊という選択肢が登場し、旅行者にとっては新たな宿泊場所が提供されることとなりました。しかし、この民泊の急増には、思わぬ副作用もありました。
民泊の背景には、住居の空き家問題と、急増したインバウンド観光客による宿泊施設の不足という2つの問題がありました。これらを一度に解決できる可能性があるとして、民泊市場は政府の支援を受けながら成長を遂げました。しかし、その影響は、予想以上に深刻でした。
特に京都をはじめとする観光地では、民泊が引き起こした問題が顕著に表れました。観光地での民泊の急増により、住民たちは不安や戸惑いを感じるようになりました。具体的には、「夜中にキャリーケースの音がうるさくて寝られない」「見知らぬ外国人が大勢、毎日マンションを出入りしている」「ゴミの放置や煙草のポイ捨てが目立つ」といった声が上がり、地域住民との摩擦が生まれました。
また、民泊が住居専用地域に進出することによって、「静かな住環境」が守られなくなることが問題視されました。京都のように観光名所が密集した地域では、観光客向けの宿泊施設が急速に広がり、その結果、地域住民の生活環境に大きな影響を与えることとなったのです。
オーバーツーリズムへの対策:旅行者としてできること
オーバーツーリズムを解消するためには、地域の自治体や観光事業者だけでなく、旅行者一人一人の行動も大切です。旅行者として、私たちができることは何でしょうか?
旅行の時期や場所を分散させる
観光地の混雑を避けるためには、旅行時期の選定や観光地の分散化が重要です。例えば、ピークシーズンを避けて旅行を計画したり、人気の観光地以外の場所を訪れることで、混雑を避けることができます。最近では、SNSで紹介されていない「穴場スポット」も増えてきており、こうした場所を探して訪れることも一つの解決策です。
エコツーリズムを意識した旅行
旅行者として、エコツーリズムや持続可能な観光を意識することも大切です。例えば、観光地では自然環境を守るためにゴミを持ち帰る、地元の文化や風習を尊重する、といったことが挙げられます。環境に配慮した観光方法を選ぶことで、オーバーツーリズムの問題に対して前向きな影響を与えることができます。
民泊利用時は特に地域へ配慮
もしも民泊を選ぶ際、その宿泊施設が地域に与える影響を考慮することも私たちにできることです。地域住民との調和を保ち、静かな環境を守るための配慮を忘れないようにすることが大切です。その宿泊施設のマナーを守ることやゴミの処理や公共のマナーを守ることは、旅行者一人一人の小さな行動でありながら、地域社会に大きな影響を与えることができます。
まだ、民泊選びにおいては、合法的な運営がされているかどうかを確認することも重要です。京都を例に取ると、無許可営業の「ヤミ民泊」が数多く存在し、地域住民に不安をもたらしました。旅行者が積極的に合法的で責任を持って運営されている宿泊施設を選ぶことで、オーバーツーリズムや地域との摩擦を防ぐ手助けとなります。
地域の取り組みを支援する
旅行者として、地域の取り組みを支援することも重要です。たとえば、観光税や入場制限が導入されることがありますが、これらは地域の持続可能な観光業を支えるために役立つ施策です。旅行者としても、地域が行う取り組みを理解し、協力することで、地域の観光産業と共に未来の観光地を守ることができます。
まとめ:オーバーツーリズムを解消し、より良い旅行を実現するために
オーバーツーリズムの問題は、観光地の混雑や地域環境の悪化を引き起こすだけでなく、私たち旅行者の体験にも影響を与えています。しかし、この問題を解決するためには、地域住民、観光業者、そして旅行者一人一人が協力し合うことが重要です。私たちが意識的に行動することで、より豊かな旅行体験を実現し、観光地を守ることができます。
旅行の計画時に時期や場所を分散させ、エコツーリズムを意識した選択をすることで、私たちは地域への負担を軽減し、持続可能な観光の実現に貢献できます。そして、地域の取り組みを支援することで、共に未来の観光地を育てていくことができるのです。
オーバーツーリズムの解消は、すぐに完璧に達成できるわけではありませんが、私たち一人一人が意識を高め、行動を変えることで、確実に前進できると信じています。共により良い旅行を実現していきませんか?