最新技術「次世代PSC」(ペロブスカイト太陽電池)とは?
ペロブスカイト太陽電池(PSC)は、近年急速に注目を集めている次世代の太陽電池技術です。ペロブスカイト構造を持つ有機無機ハイブリッド材料を利用することで、高い光電変換効率と低コストな製造プロセスを実現しています。
- 発明と開発の歴史:2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授らによって発明され、その後、日本を中心に研究開発が進められてきました。この発明は、太陽電池の性能と製造コストの両面で革新をもたらし、従来のシリコン系太陽電池に代わる有力な選択肢として注目されています。
- 現在の開発状況:日本では積水化学工業が政府支援を受けて大規模な生産ラインを整備中で、2025年までに100万キロワット級の生産を目指しています。一方、中国はガラス型PSCの量産に成功し、世界市場でのシェア拡大を図っています。欧米諸国も耐久性向上や高効率化に向けた研究を進めており、特許出願では中国が37%とトップを占め、日本が21.3%を占めています。
- 国際的な動向:特許出願では中国が37%とトップを占め、日本が21.3%を占めており、各国が自国の技術を保護しつつ、国際市場への対応を強化しています。特に中国は政府の強力な支援を背景に、量産体制を急速に整えており、日本や欧米との競争が一層激しくなっています。
これらの動向から、PSCは再生可能エネルギー分野での重要な役割を担い、各国が競争と協力を通じて技術革新を推進しています。次のセクションでは、「次世代PSC」の特長と期待される産業分野について詳しく見ていきましょう。
「次世代PSC」の特長、期待される産業分野
「次世代PSC」は従来のシリコン系太陽電池を凌駕する多くの特長を持ち、さまざまな産業分野での応用が期待されています。
目次
Toggle特長
- 高効率:従来のシリコン系太陽電池を上回る光電変換効率(最高記録26.7%)を実現。これにより、同じ面積でもより多くの電力を生成できるため、エネルギーの効率的な利用が可能です。
- 柔軟性:フィルム状に製造可能で、折り曲げや曲面への適用が容易。これにより、建物の曲面部分や移動体への取り付けが可能となり、設置の自由度が大幅に向上します。
- 低コスト:塗布や印刷技術により製造コストを大幅に削減(シリコン太陽電池の約3分の1)。大量生産が可能となり、普及コストも低減します。
- 軽量化:従来型よりも軽量(約2.5 g/W以下)で、設置場所の選択肢が広がる。軽量であるため、既存の構造物に負担をかけずに設置でき、広範な応用が可能です。
- 多用途性:建物の壁面、窓、屋根、防音壁など多様な場所への設置が可能。これにより、都市部や建築物のエネルギー自給率向上に寄与します。
- 弱い光でも発電:低照度環境下でも発電が可能(200ルクスでも発電)。曇りの日や朝夕の薄明かりでも電力を生成できるため、全天候型のエネルギー供給が実現します。
- 国内材料調達可能:主原料のヨウ素を日本が世界シェア約3割で供給。これにより、資源の安定供給が可能となり、国際情勢や為替の影響を受けにくくなります。
- CO2排出量の削減:低温製造プロセス(100℃)により製造時のCO2排出を削減。従来のシリコン太陽電池の高温製造に比べて環境負荷が少なく、持続可能な製造が可能です。
- 光透過性:ガラス窓にも使用可能で、建築物への組み込みが容易。透明性を持たせることで、建物のデザインを損なうことなくエネルギー生成が可能です。
- 色の変更が可能:黒、赤、黄色、オレンジなど色を変えることができ、デザイン性を向上。建築物の美観を保ちながらエネルギーを生成することができます。
期待される産業分野
- 建築分野:建物の外壁や窓への設置によるエネルギー生成。特に高層ビルや商業施設での活用が期待され、エネルギー自給率の向上に寄与します。
- 自動車産業:電気自動車(EV)やドローンへの搭載によるエネルギー供給。車両の走行距離を延ばし、バッテリーの持続時間を改善する効果が期待されます。
- 防音・防振設備:道路の防音壁や橋梁など、耐荷重性の低い構造物への導入。これにより、既存のインフラを活用したエネルギー生成が可能となります。
- スマートシティインフラ:スマートポールなどの公共インフラへの組み込み。街灯や通信設備と連携し、エネルギー効率の高い都市インフラの構築に貢献します。
- エレクトロニクス:ウェアラブルデバイスやポータブル電子機器への応用。携帯型デバイスの電力供給を持続可能にし、ユーザーの利便性を向上させます。
- 農業分野:営農型ソーラーシェアリングによる農業用ハウスへの設置。農作物の育成とエネルギー生成を同時に行うことで、効率的な農業運営が可能となります。
- 住宅分野:発電するガラスとして住宅建材と組み合わせた利用。住宅の外観を損なうことなくエネルギーを生成し、家庭のエネルギー自給率を向上させます。
これらの特長と応用分野により、「次世代PSC」は幅広い産業でのエネルギー効率化と持続可能な社会の実現に貢献しています。次のセクションでは、ペロブスカイト太陽電池の過去から現在までの技術進化について詳しく見ていきましょう。
ペロブスカイト太陽電池の技術のこれまでの開発の歴史について
ペロブスカイト太陽電池の技術は、過去50年間で劇的に進化してきました。以下に、主要な技術進化の歴史を年代順にまとめます。
- 1970年代:ペロブスカイト構造の材料が初めて発見される。この発見は、後の太陽電池技術における基盤となりました。
- 2009年:桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授らがペロブスカイトを用いた太陽電池を発明。この技術は、従来のシリコン系太陽電池に比べて製造コストが低く、高効率な発電が可能となりました。
- 2012年:日本の桐蔭横浜大学がフィルム型PSCの高効率化に成功し、日本が技術リーダーとして注目。フィルム型は柔軟性が高く、多様な用途に適用可能であることが評価されました。
- 2015年:中国がガラス型PSCの量産技術を確立し、コスト競争力を強化。ガラス型は耐久性に優れ、大規模な商業生産が可能となりました。
- 2020年:日本企業と中国企業が世界市場でのシェアを拡大。積水化学工業が大規模生産を開始し、国際競争が一層激化。特許出願も中国が37%とトップを占め、日本が21.3%を占める状況に。
- 2024年:日本政府が「次世代型太陽電池戦略」を公表し、2040年までに国内約20GW、海外500GW以上の導入を目指す。これにより、PSCの普及と技術開発がさらに加速。
- 2025年:欧米でもガラス型PSCの耐久性向上に成功し、国際競争が激化。特許出願では中国が37%とトップを占め、日本が21.3%を占める。
技術進化の成果
- 光電変換効率の向上:初期の約3%から現在では25%を超えるまでに向上。最新の研究では26.7%という高効率が記録されており、従来のシリコン系太陽電池に匹敵する性能を実現しています。
- 製造コストの削減:従来のシリコン系太陽電池に比べて約30%削減。塗布や印刷技術の導入により、大量生産が可能となり、製造コストの低減に成功しています。
これらの技術進化により、PSCは再生可能エネルギー分野での競争力を高め、各国が積極的に導入を進めています。次のセクションでは、ペロブスカイト太陽電池が地球環境に与える期待について詳しく見ていきましょう。
ペロブスカイト太陽電池技術が地球環境問題の改善の観点で期待されることとは?
ペロブスカイト太陽電池(PSC)は、その優れた特長から地球環境への多方面での貢献が期待されています。
- 再生可能エネルギーの普及促進:高効率かつ低コストなPSCは、再生可能エネルギーの普及を加速させ、化石燃料依存からの脱却を支援します。これにより、エネルギーの持続可能な供給が可能となり、環境負荷を大幅に軽減します。
- CO2排出削減:再生可能エネルギーの増加により、温室効果ガスの排出削減に寄与します。特に、低温製造プロセスにより製造時のCO2排出量も削減され、全体的な環境負荷が低減されます。
- 資源の有効利用:軽量で柔軟な材料を使用することで、建築物やインフラへの適用が容易になり、土地利用の効率化を実現します。これにより、限られた土地資源を有効活用し、都市部でも効果的にエネルギーを生成できます。
- エネルギー自給率の向上:各国が自国でPSCを生産・導入することで、エネルギーの自給率向上と経済安全保障の強化に繋がります。特に、日本はヨウ素の国内生産シェアが高いため、安定した材料供給が可能となります。
- 送配電ロスの削減:需要地での発電量を増やすことで、遠隔地からの送電によるエネルギーロスを抑制します。これにより、効率的なエネルギー利用が可能となり、全体的なエネルギー効率が向上します。
これらの環境への貢献により、PSCは持続可能な社会の実現に向けた重要な技術と位置付けられています。次のセクションでは、ペロブスカイト太陽電池が直面する課題と、それを解決する最新技術やチャレンジの状況について詳述します。
ペロブスカイト太陽電池の課題や今後の展望
ペロブスカイト太陽電池(PSC)の普及にはいくつかの課題が存在しますが、最新技術や各国の取り組みによって解決が進められています。
耐久性の向上
PSCは湿気や熱に弱いという課題がありましたが、最新の封止技術や材料改良により耐久性が大幅に向上しています。
- 封止技術の進化:液晶向けの封止材などの技術をPSCに応用し、液体や気体が入り込まないように工夫。これにより、PSCの耐久性が飛躍的に向上し、長期的な使用が可能となります。
- 耐久性の実現:積水化学工業は2025年までに20年相当の耐久性を実現する方針を発表。これにより、従来のシリコン型太陽電池と同等の耐用年数を持つPSCが実現され、長期的な投資価値が高まります。
スケールアップの技術革新
大量生産に向けた製造プロセスの最適化が進み、フィルム型とガラス型の両方で商業生産が実現可能に。
- 塗布技術の革新:東芝は「1ステップメニスカス塗布法」を開発し、変換効率を向上させつつ製造速度を高速化。これにより、大面積のPSC製造が容易となり、量産体制の確立が加速します。
- ロール・ツー・ロール方式:積水化学は製造効率の高いロール・ツー・ロール方式を実現し、量産やコスト面での期待が高まっています。この技術により、フィルム型PSCの大量生産が可能となり、普及コストのさらなる低減が見込まれます。
環境負荷の低減
製造過程で使用される有害物質の排除やリサイクル技術の開発が進行中。
- 鉛代替材料の研究:京都大学や桐蔭横浜大学では、鉛に代わるスズやAgBi2I7を使用した材料の研究が進行中。これにより、安全性の向上と環境負荷の低減が期待されています。
- リサイクル技術の開発:有害物質の排除とリサイクル技術の向上により、環境負荷をさらに低減。廃棄後のリサイクルが容易になり、持続可能な製造プロセスが確立されつつあります。
国際競争と協力
日本、中国、欧米各国が技術競争を繰り広げる一方で、国際的な標準化や技術共有の動きも見られます。
- 特許出願の増加:中国が特許出願件数トップ、次いで日本。各国が自国の技術を保護しつつ、国際市場への対応を強化しています。特に中国は政府の強力な支援を背景に、量産体制を急速に整えており、日本や欧米との競争が一層激しくなっています。
- 技術共有と標準化:国際的な協力により、技術の標準化が進み、PSCの国際的な普及が促進されています。各国の研究機関や企業が共同で研究開発を行うことで、技術の進展と普及が加速しています。
政策支援と資金調達
各国政府が研究開発への資金支援や導入促進策を講じ、産業の成長を後押ししています。
- 日本政府の支援:経済産業省は「GXサプライチェーン構築支援事業」を通じて製造設備への投資を支援。これにより、国内メーカーの技術開発と量産体制の確立が促進されます。
- 補助金制度:令和6年度からペロブスカイト太陽電池の製造に関する補助金制度を実施。予算額は4,212億円で、製造設備投資の1/3~1/2を補助します。この補助により、企業の技術開発と量産化が一層促進されます。
日本の国家戦略
日本政府はペロブスカイト太陽電池技術を国家戦略の一環として位置付け、エネルギー安全保障と経済成長を両立させることを目指しています。
- エネルギー安全保障の強化:国内で材料を調達・生産できるPSC技術の普及により、エネルギーの自給率を高め、国際的なエネルギー供給の不安定さから脱却することを目指しています。
- 経済成長と技術革新の推進:PSC技術の商業化により、新たな産業の創出と既存産業の高度化を図り、経済成長を促進します。特に、製造業や建設業、自動車産業など多岐にわたる産業への波及効果が期待されています。
- 環境目標の達成:再生可能エネルギーの普及を通じて、2050年までのカーボンニュートラル達成に向けた具体的な手段としてPSC技術を推進。これにより、国内外での環境目標達成に貢献します。
- 国際競争力の強化:技術革新を加速させることで、国際市場での競争力を高め、日本企業が世界市場でリーダーシップを発揮できるよう支援します。特に、積水化学工業や東芝などの主要企業が先駆けて技術開発と商業化を推進しています。
- 研究開発の促進:大学や研究機関との連携を強化し、基礎研究から応用研究まで一貫した技術開発体制を構築。これにより、持続的な技術革新と人材育成を実現します。
これらの国家的な狙いにより、日本はペロブスカイト太陽電池技術を戦略的に推進し、エネルギー、経済、環境の各分野での持続可能な発展を目指しています。
まとめ
ペロブスカイト太陽電池(PSC)は、再生可能エネルギーの普及において重要な役割を果たす次世代技術です。
- 高効率かつ低コストな製造プロセス:光電変換効率の向上と製造コストの削減に成功し、従来のシリコン系太陽電池を上回る性能を実現しています。
- 柔軟性と軽量化:多様な設置場所への適用が可能で、従来型では難しかった場所にも太陽光発電を導入できます。
- 各国が競争と協力を通じて技術革新を推進:日本、中国、欧米各国がそれぞれの強みを活かし、技術の商業化を進めています。
- 地球環境への貢献とエネルギー自給率の向上:再生可能エネルギーの普及促進とCO2排出削減に寄与し、エネルギーの自給率向上と経済安全保障の強化に繋がります。
- 国家的な戦略の一環としての推進:日本政府はPSC技術をエネルギー安全保障と経済成長の両立を目指す国家戦略として位置付け、技術開発と商業化を積極的に支援しています。
みんなのエコジャーナルとして、PSCの進化と普及を見守り、持続可能な未来に向けた技術の発展を支援していくことが重要です。PSCは、私たちの生活環境を改善し、持続可能なエネルギー社会の実現に貢献するポテンシャルを秘めています。最新の技術動向や市場の変化を注視し、情報を共有することで、より良い未来を築く一助となるでしょう。
参考文献
- 産経新聞「再エネ普及の切り札は『ペロブスカイト太陽電池』 官民で世界の覇権狙うも中国急迫」 リンク先
- 桐蔭横浜大学宮坂力特任教授の研究発表 リンク先
- 積水化学工業の公式発表 リンク先
- 経済産業省「ペロブスカイト太陽電池に関する報告書」 リンク先
- 欧米の最新PSC研究動向レポート リンク先
- ニューサウスウェールズ大学「高耐久性のペロブスカイト太陽電池を開発」 リンク先
- 東芝「大面積フィルム型ペロブスカイト太陽電池の提供について」 リンク先
- 日本経済新聞「次世代太陽電池、30年EV搭載へ トヨタ・京大発新興組む」 リンク先
- 富士経済「ペロブスカイト太陽電池の世界市場は2035年に1兆円」 リンク先
- 特許庁「ニーズ即応型の技術動向調査 テーマ名:「ペロブスカイト太陽電池」」 リンク先
- 日本政府経済産業省「GXサプライチェーン構築支援事業」 リンク先
- 日本経済新聞「曲がる太陽電池、電力買い取り優遇 経産省」 リンク先
- ニュースイッチ「ペロブスカイト太陽電池」耐久20年実現へ、積水化学が2025年事業化 リンク先
- 経済産業省「次世代型太陽電池戦略」 リンク先
- 一般社団法人 沖縄CO2削減推進協議会「次世代太陽電池 ペロブスカイト太陽電池について」 リンク先